突然バニラエッセンスのような匂いがした――クレープ屋さんの車でも来たのかな?
でも、音楽は聞こえないし排気ガスの臭いもしない。甘味を醸し出すその香りは人工的薬品臭さが一切なく、存分に吸い込み続けても気分が悪くならなかった。
僕は目を閉じ続けた。キーキー鳴るブランコの音と連動して心地良さが増す。
匂いがどんどん強くなってきた。

「さぼりは駄目だぞ」

目を開けると、女の人が立っていた。
白い半袖カッターシャツと紺のセーラースカート姿で、サラサラの黒髪が胸のあたりまであった。肌が赤ちゃんのように綺麗で白い。

「私が誰だか分かる?」

女の人がスカートの裾を両手で掴んで、くるっと一回転した。
その人物が、隣の席の芹沢と分かるまでに数秒かかった。中学、いや高校生に見えた。
とはいえ、以前公園でサッカーをしていた時に「ウゼーんだよ、あっちへ行けよガキども」と乱入してきた二人の女子高生とは全然違う姿だ。その二人は髪が金色で顔中が黒かった。目が埋るほど長い睫毛をしていて耳たぶに何個も金属を付けていた。二人とも全く同じ恰好をしていたから、恐い双子に見えた。何よりもダボダボの黄ばんだ靴下の足先から納豆と味噌をあえたような強烈臭がしていた。