靴を脱いで部屋にあがった。ごわごわ浮いていた畳が凹む感触がした。泥棒の気分になり、自然と忍び足になってしまう。
躓く物がないから下を注意せずに済んだ。
何もないからこそ、壁に掛けてあったカレンダーが異常に目立った。
6月5、15、25日に赤丸が付けてある。
捲ると、7月も5、15、25日に赤丸がしてあった。
次々捲っていくと12月まで5、15、25日に赤丸がされていた。
仕事が休みの日だろうか?
それともスーパーの特売日だろうか?
引っ越す前に母がよく行っていたスーパーは3、13、23日と、一桁に3の付く日は魚の日で、魚が安かった。

部屋のドアを開けて細長い廊下に出た。
ところが、冷蔵庫も洗濯機もガスコンロもない。風呂とトイレが一緒になった部屋には、半分くらい使用したトイレットペーパーがあるだけだった。
一応、男はここで生活しているのだろうか?
コンロを置くようになっている、錆びついた平たいステンレスの上の棚を開けた。空洞だった。
フライパンも皿も箸もスプーンも、勿論包丁もない。
本当に何もない、証拠がみつからない。
男が、芹沢を家に招待したがらないのが理解できた。